南伊豆の住宅1

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  • 竣工:1988年9月
  • 建設地:静岡県加茂郡
  • 規模:地上2階
  • 構造:木造
  • 敷地面積:403.0㎡(約122坪)
  • 建築面積:66.8 ㎡(約20坪)
  • 延床面積:101.0㎡(約31坪)
  • 施工:清水建築
  • 設計:野沢正光建築工房
  • 掲載紙:「住宅特集」1989年8月号(新建築社)
主旨
伊豆半島の先端,下賀茂から少し山の中に入る小さな谷間にこの住宅はある.この谷に定住する陶芸家の敷地隣に,ここに時折泊まりに来ていたその親戚の家族が,敷地隣に建てることにした小さな小屋である.
東に開ける小さな谷の,小さな段々畑の跡であるこの敷地は,三日月型の「猫のひたい」である.道路のカーブはその三日月の弓型の小さな擁壁の下にあり,道路から隔離された安心感のあるものである.
土地が,不整形でありながら,ここでの長年の畑作を思わせる人工の水平性を保ったものであることから,建物は計画当初から,この土地の形状に合わせたものとして検討され,最終的に小さな2輔の汽車がカーブに沿って谷沿いに現れたごときものとなった.その1輌目は1階建てで居間に,2輌日は2階建てで主に就寝,休息のスペースに当てられている.それは小さな谷の小さな古い擁壁の高さに合わせ,ぎりぎりに押さえたものとしてある.ふたつの小屋は汽車の比喩というより,周辺の小ぶりな風景の比喩である.またこの建物が上から見られることへの配慮から,屋根をヴォールト状としたが,この架構には,アテの松丸太をタイコにおとしたものを使用しており,そのことが「2輌の汽車」のもうひとつの作為であった.不整な曲率である丸太から,適当なものを大工に用意してもらい,母屋を幾何学的なアールに合わせるべく,寸法の違う束の上に置く.そして,天井裏が,極力ボタッと厚くならないよう,タイコにおとしたおのおのの梁のアールに納まるよう天井を張ることとしたのである.この不整形と整形のゲームを解くことによって,この週末住宅は立体としての全貌をほぼ定め,東の大きな開口から日射しに映える小さな谷のすベてを水平に見るこの床地は小屋になった.ここへのアプローチには,火の見櫓,小橋,小川など,ひどく懐しい寸法のものが点在し,アプローチそのものもコンクリートで舗装されているとはいえ,「小径」といった風情のものであり,それらは駐車スペースを整地するほどのことが,木工事に見えるものであった.それらのことごとが,この住宅のすべてを決めたと思うし,この土地が,陶芸家の友人を訪ねるため僕白身が幾度も訪れている土地であったことも,この住宅を決める手助けになったと思う.この住宅の上にある小さな台に建つ友人のセルフビルドの住宅は,この夏建て替えられ,この土地の僕が関わるふたつめの住宅となるはずである.
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